今宵は天使と輪舞曲を。
少しでもラファエルのことを思えば胸が熱くなる。体が彼を求めて上気する。
認めるしかないのだ。自分は彼に恋愛以上の感情を抱いているということを――。
けれども彼はいったいどういうつもりで口づけたのだろう。
昨日ほんの少しだけ口にしたメレディスの愛馬だったクイーンのことを覚えてくれていたり、大切なブローチを叔母たちに取り上げられた出来事を癇癪ひとつ起こさず、ずっと辛抱強く耳を傾け続けてくれた。
翡翠色の綺麗な目は湖の色に映え、オリーブ色の健康な肌はしっとりとなめらかで余分な肉付きのない体。広い肩幅に分厚い胸板。全身からは力強さが溢れている。
ラファエル・ブラフマン。洗練された肉体をもつ男性を彼以外に知らない。
ふたたびメレディスは深い息を吐き出した。
ラファエルと交わした口づけを思い出せば頬は薔薇色に染まってしまう。
こんなことでは夕食に向かうとこも出来ない。もしこんな状態で叔母たちに会えば、ラファエルとの出来事を勘繰られる可能性もあるのだ。
「困ったわ……」
「何が困ったの?」
誰に言うでもなくひとりごとをぽつりと言うと、前方から聞き慣れた声が聞こえた。
メレディスははっとして手の中にあった馬油が入っている小瓶から顔を上げる。
するとそこには目尻をほんの少し吊り上げ、両手に腰を当てて仁王立ちしているキャロラインが立っていた。小鼻を膨らませて文句ひとつでも言いたげな表情はあからさまにご機嫌斜めだ。彼女特有の華奢な体はいつも以上に大きく見えた。