今宵は天使と輪舞曲を。
「いいのいいの。後で説明しておくから」
今の興奮状態にあるキャロラインを宥めるのは難しい。メレディスは小さく苦笑を漏らすと、「じゃあ、今日あった出来事を教えてもらえる?」とキャロラインに訊ねた。
メレディスはどうしても年頃の貴族の女性がこなさなければならない役割がどういうものなのかを知りたくてたまらなかった。ラファエルが住む世界のことを知りたい。如いては自分が少しでも彼に近づけるように。けれどそう願うのは無謀なことなのだろうか。
ラファエルと自分とでは釣り合いが取れるはずはないのだと思えば胸が痛い。吸い込んだ息が震える。所詮は没落した貴族で使用人のような生活を強いられている身の上だ。自分とラファエルとでは天国にいる両親のようにはなれないのは分かりきったことだ。
そこでメレディスの意識は両親が亡くなった知らせを受けた当初へと向かってしまった。誰も頼りになる大人がいない現実。社交界デビューさえもしていない娘がひとり取り残され、絶望する毎日――。
「いつものつまらないことよ」
キャロラインの言葉に、メレディスの意識は呼び戻された。メレディスは首を左右に振ると、痛む胸にそっと手を置いて静かに告げた。
「でも、わたしは貴女のいつもを知らないもの」
「じゃあ、わたしもラファエルと何があったのか教えてくれる?」
「……いいわ」
メレディスは少し考えたが、どうせキャロラインのことだ。ラファエルと何が起きても少しも不自然には思わないだろうと思い直し、大きなアンバー色の目を輝かせている彼女と向き合うと大きく頷いて見せた。
《メレディスとキャロライン・完》