今宵は天使と輪舞曲を。
年頃の娘が憧れる結婚さえもできず、このまま朽ち果ててしまうのだろう。
そう思えば思うほどにメレディスの心の中では無情な叔母の仕打ちが怒りを呼び起こし、ふつふつと湧き上がってくる。
彼女の心はここへ来た当初にはなかった反抗心が芽生えはじめていた。
メレディスはもともと大人しい性格ではない。ただ黙っていられるほど弱虫でもなかった。
そして手元にバケツがあったのがいけなかったのだ。
それも、たっぷりと水が張ってある汚れた布入りのバケツが――。
彼女はさりげなく片方の腕を動かすと、勢いよくバケツに触れた。大きな悲鳴が上がったかと思えば彼女たちの足下はすっかり水浸しになった。
「ちょっとメレディス!」
「まあ、ごめんなさい。叔母さま、お姉さま方」
ずぶ濡れなんていい気味だ。
そのまま風邪でもひいてくれればいいが、何分彼女たちはとても健康だ。
風邪なんてひくはずもないし、むしろ風邪の方が嫌がって彼女たちから遠ざかって行くに違いない。
メレディスはそれらしい声音を作り、少しも思っていない謝罪を口にする。表情は笑わないよう、必死に口元をへの字に曲げて項垂れた。
エミリアはメレディスを罵ろうと口を開けるものの、彼女の意に反してそれを阻止したのは次女のヘルミナだった。
ヘルミナは、持っていたハンカチで汚れた母親のスカートを拭き始めたのだ。おかげでエミリアのドレスの裾は余計に汚れがこびりつく。