今宵は天使と輪舞曲を。
「わたしは部屋にいたわ。さあ、答えて。怪しいわね、何か後ろめたいことでもしているの?」
しかし困った。今日は何故かヘルミナが引かない。時刻は午後一時を回っている。ラファエルとの約束の時間は残り僅かだ。幸いにもメレディスは化粧というものに興味はなく、身支度も時間はかからないものの、それでもブラフマン邸から湖までの距離に三〇分はかかる。どうしたものかと考えるメレディスに、ヘルミナは何かを悟ったらしい。
「誰かと待ち合わせなの?」
図星だ。メレディスはどきりとした。
今日の彼女はどこか立ち入ったことばかり訊ねてくる。
「ねぇ、ヘルミナ。本は好き? 一緒に読書しない?」
タイミングよく声を掛けたのはキャロラインだ。ヘルミナはまさかのお誘いに断り切れず、口をまごつかせながら渋々頷いた。
「良かった。じゃあ行きましょう? とっておきの本があるの」
キャロラインはヘルミナの手を取り、一階にある図書室へと向かった。途中、メレディスの方へ振り向くと、彼女はウインクをひとつ寄越した。
彼女の許しが出たのだ。
キャロラインには昨夜、一緒に夕食を摂った時に今日またラファエルと会い、厩舎と馬を見せてくれることになっていることを話していた。それから愛馬だったクイーンのことや、彼に口づけられたことも少し話した。まさか彼女がメレディスを助けてくれるとは思ってもいなかったが、こうして難を逃れることが出来たのはすべてキャロラインのおかげだ。