今宵は天使と輪舞曲を。
まさか自分が既婚者の男性と同じような気持ちになるとは思ってもみず、それどころか、こうして待っている時間さえも楽しいと思える女性が現れるとも思いもしなかった。
これまでの自分なら考えられないことだと、彼女と出会う前の自分を比べたラファエルは苦笑を漏らした。
二羽の小鳥が青空を舞う。木々に茂る新緑の若葉がそよ風によってかさかさと音を立てる。手にしている手綱がほんの少し揺れた。
今日、ラファエルが連れてきた馬は牡馬で、二人乗りもできるよう、胴回りは大きく、温厚で耐久力に長けている。メレディスも昔に馬を飼っていたそうで、一昨日前も器用に乗りこなしていた。だが、彼女がどこまで馬に馴れているのかが判らないため、今回は厩舎にいる数多くの馬の中でも比較的大人しい馬を用意した。
どうやら彼は自分好みの草を発見したのだろう、頭を前に突き出すと上下の歯を器用に使い、食べ始めていた。茶色い尻尾が昼の陽気に照らされ、金色に輝く。
ラファエルは艶やかな毛並みと体つきをしている愛馬を愛でながら、昨日メレディスと会話した時のことを思い出していた。
彼女が馬のことを話す時に見せた笑みはどんな宝石よりも美しい。頬を薔薇色に染め、口角が上がる唇に、笑うと出る小さなえくぼはチャーミングだ。彼女はどんなに不幸であっても自分を見失うことがない。そういうところも、ラファエルの好みだった。
もう一度、彼女と他愛ない会話を楽しみたい。何より、あの微笑みを見ていたい。