今宵は天使と輪舞曲を。
「ヘルミナ! 何をしているのです!」
「ご、ごめんなさい! あの、でもお母さまの大切なドレスが汚れてしまうので、早く拭き取ろうかと思って……」
最後尾の言葉は声になっていない。
よほど母親が恐ろしいのだろう。いつも怒鳴り散らしている母親を目の当たりにしているのだから無理もないとメレディスは思った。
おかげで彼女は自分の意見も言えないほど引っ込み思案になってしまった。
可哀相なヘルミナは一人では何もできず、常に母と姉の側をついて回るばかりだ。おかげで彼女は溜まったストレスを食欲で解決するようになった。だから彼女の体型は年頃の娘たちに比べてぽっちゃりしている。
けれどもかえってそのふくよかな体つきが紳士の目に止まりやすいのではないだろうか。二十歳の彼女はエミリアの器量を受け継いでいる。
父親譲りの腰まである茶色い髪は緩やかに波打ち、透明で綺麗な肌をしている。
ただ、大きくてまん丸の茶色い目はいつも挙動不審でいるのが玉に瑕だが――。
「ヘルミナ! もういい加減手を止めなさい! いいこと? 貴方はこれから三週間、けっして炭水化物を摂ってはなりませんよ! ジョーンと同じサイズのコルセットが入るまでは絶対に!!」
未だにドレスの裾を拭い続ける彼女の手を止めた愚かな叔母は最後通牒を突きつけるごとく、言い放った。