今宵は天使と輪舞曲を。
ヘルミナの唇がわなわなと震え、顔が青ざめていくのがわかる。大好きな食事を制限されることが彼女にとっては死刑を言い渡されるくらい恐ろしいことなのだとメレディスは思った。
「わ、わたしだけ……?」
「いいえ、メレディスも一緒です! 大切な娘にひとりで挑戦させる理由なんてありませんよ」
言いきった叔母に、ヘルミナは安堵したらしく、満足げに口元を歪ませて笑った。
そうはいうものの、メレディスにとって食事らしい食事を彼女たちから与えられたためしはなかった。なにせメレディスは彼女たちから言わせると余所者なのだ。
食事の用意をしているのはメレディスなのに残り物しか与えられない。メレディスはただ歯を食いしばり、汚れた雑巾の上で力いっぱい握り締めた。おかげで塞がりかけていた手の傷口は開き、出血している。
そんなメレディスを気にもかけない彼女たちは広間を抜けると踊り場に向かった。足取り軽く、階段を上って衣装部屋へと急ぐ。
その最中、エミリアはメレディスにパーティーへ向かうための馬車や御者などを手配するよう指示を出し、あたかも自分が一番忙しいように振る舞った。
これでまた、トスカ家の品物が手元から消えていくのだ……。
メレディスは唇を引き結び、孤独と絶望に打ちひしがれた。
《デボネ家の日常・完》