今宵は天使と輪舞曲を。
過去に男爵家に住み込みで働いているメイドが結婚したという話をゴシップ誌で目にしたことがある。メイドは万が一にも雇い主と関係を持たないよう、常に容姿は不器量な者ではならないと決まっていた。そんな不器量なメイドでも男爵と結婚することができたのだ。自分ができないわけがない。
だって自分はメイドでもない。落ちぶれたとはいえ貴族の出だ。立ち振る舞いは覚えているし、きちんと家の切り盛りだってしてみせる。
そしてもしかするとつい先日あった舞踏会で自分を愛してくれる男性と出会えたかもしれない。ヘルミナは確信めいたものを感じていたのだ。
だからこそ、メレディスには余計な変化をもたらして欲しくなかった。
古びていてもカビ臭くても良い。できるなら今すぐブラフマン邸を飛び出して屋敷に帰りたい。そして舞踏会に出てもう一度彼と会い、彼の中に自分への特別な気持ちがあるのかを尋ねたい。それでもし、彼の中に特別な気持ちがあるのなら、自分は――。
ヘルミナは閉じた目を開き、ポケットの中にあるものを指先で滑らせてから立ち上がった。
「わたし、メレディスとも一緒に読書がしたいわ」
「えっ? どうして? 二人だけじゃ面白くなかった?」
ヘルミナが立ち上がると案の定、キャロラインが後を追ってきた。彼女は間違いなく焦っていて、メレディスから遠ざけようとしている。
「ヘルミナ、待って。彼女、夕べから気分があまり優れないみたいで……」