今宵は天使と輪舞曲を。

 早足で進むヘルミナの後を小走りで駆け寄るキャロラインの様子はますます怪しい。何が何でもメレディスと会わせたくないように思える。

「だったらなおさら心配だわ」
 ヘルミナは右手を胸の前に当てた。できるだけ気遣う態度を作りながら、思ってもいない言葉をその唇に乗せた。

 果たして自分はこれほどまでに行動的だっただろうか。慌てて付いてくるキャロラインを余所に、やや駆け足になりながらも二階へやって来ると、彼女の部屋をノックした。

「メレディス?」
 やはり何かがあるようだ。ドアをノックしても中から返事が返ってこない。

「メレディス、いるの?」
 確かめるようにもう一度ノックして声をかけても同じだ。中に人がいる気配がない。
 例しにドアノブを回してみると、小さな音を立ててドアが開いた。
 彼女は部屋の鍵をかけ忘れるほどの重要な用事でもあったのか。

「いないの? メレディス?」
「ねぇ、きっと眠っているのよ。ゆっくり寝かせてあげましょう?」
 ヘルミナの呼び声に答えたのはやはりキャロラインだ。彼女は明らかに動揺している様子だ。両足を小刻みに揺らしている。

「あ、メレディスなんかよりも一緒にお茶会でもしない? メイドに言って用意してもらうわ」
 ヘルミナが部屋の全貌を見て取れるくらいドアが開いたのと同時だった。キャロラインが自分とドアの間に割って入ってきた。

 相当自分を部屋に入らせたくない理由があるようだ。
 ヘルミナはキャロラインを押し退けた。


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