今宵は天使と輪舞曲を。
今はどうだろう。彼女にはキャロラインという友人ができ、ブラフマン家に招待された。そして初日には彼女と乗馬を楽しんだブラフマン伯爵もまた、メレディスを気に入ったようだった。彼はメレディスに優しい視線を向けていた。
なぜブラフマン邸に来たとたん、自分たち一家ではなく使用人のような扱いのメレディスが優遇されるのか。
彼女は両親を失った。女の身では地位も名誉もない彼女の身寄りは唯一ヘルミナの母親であるエミリアのみ。居候の身でありながら、しかも疫病神のような存在の彼女が脚光を浴びるなんて許されないことだ。
――気に入らない。
鼻は小さくて低いし太っている不器量な自分は美人だともてはやされている姉よりもずっと劣るが、少なくともメレディスには勝っているはずだ。
人々を死に追いやる彼女は蔑まれて当然で、自分よりもずっと格下でなくてはならない。
「いいわ、答えないつもりね」
ヘルミナは腰に両手を当てて外を見た時だ。庭の奥の方で人のような何かが動いたのが見えた。
「あれは……誰かしら。メレディスじゃない?」
ヘルミナはただ人影を見ただけだ。庭師の可能性だってある。
それなのに、ヘルミナはなぜかあの人影がメレディスかもしれないという気がして仕様が無いのだ。
部屋から消えたメレディスと庭の方に見えた人影。あまりにもタイミングが良すぎないだろうか。
壁に掛けられた時刻は午後四時を回っている。
キャロラインが自分から遠ざけるためにお気に入りの書斎へ案内したのだとすれば――……。