今宵は天使と輪舞曲を。
もし、ヘルミナが見た人影が彼女だとするならば――。
いったい二時間も彼女はひとりで何をしているのだろう。
――いや、ひとりではないかもしれない。
あの人が言っているとおり、彼女が誰かと会っているのかもしれない。
ヘルミナはポケットの中にある感触を確かめながら、目を閉じる。
そしてその誰かは間違いなくキャロラインも知っている人間なのだ。そう言いきれるのはキャロラインは何かを知っていて、それをヘルミナに悟られないよう動いているのは明らかだったからだ。
「メレディスのわけないじゃない。なぜそんなことを言うの?」
ヘルミナに反論する声のトーンは高い。明らかに動揺しているのはたしかだ。ヘルミナはキャロラインの声に合わせて閉じた目を開く。
それから、後ろから何やらぶつくさ小言を言うキャロラインを無視してエントランスに続く階段を足早に下りる。庭へと急いだ。
キャロラインはどうあってもヘルミナの行動を見届けたいらしい。後ろから追いかけてくる。
「ちょっと! 待ちなさいよ、ヘルミナ!!」
あっという間に庭に下りたヘルミナに息を切らして付いてくるキャロラインの言葉を合図にしてようやく立ち止まった。
久しぶりに走ったおかげで肺が酸素を求めている。心臓も大きく鼓動して両肩が大きく上下に動く。
ヘルミナはメレディスに怒りを覚えていた。たかが居候の分際で自分よりも目立つのが許せなかった。だから彼女と出会したらこの怒りを彼女にぶつけてやろうと思ったのだ。