今宵は天使と輪舞曲を。
それなのに、目と鼻の先にいる人物を見たヘルミナは息を詰まらせた。
ヘルミナがメレディスに怒りをぶつけなかったのは、新緑の葉が生い茂る木々の合間を縫うように、ほんの少し目の前にいるもうひとりの人物に驚きを隠せなかったからだ。
たしかに、緑の生い茂った庭にメレディスはいた。けれどもそこにいたのは彼女ひとりだけではない。
ヘルミナは、彼女と一緒にいる人物にこそ、驚いていた。
ヘルミナが見た目と鼻の先にいた人物は、立派な栗毛の馬を連れていた。
今、社交界を騒がせているキャロラインの兄、次男のラファエルだ。彼はメレディスの腰に腕を回し、何やら耳元で囁いている。メレディスもまた、頬を薔薇色に染めて微笑んでいる。そんな二人はまるで恋人のように甘い雰囲気を出していた。
――たしかにあの人は、メレディスの陰に男性の姿があって、その男性が自分たちふたりの行く末を危険にさせると言っていた。しかし、メレディスの相手はヘルミナが予測するよりもずっと大きな存在だったのだ。
口を開けて驚くヘルミナの後ろからは、息を飲む音が聞こえた。
キャロラインはヘルミナに目撃されたことがショックなようだ。
関われば死を招く疫病神のメレディスと、今をときめく社交界のプリンス。こんな組み合わせがあっていいのだろうか。
ヘルミナは目を瞬かせ、大きなどんぐりのような目をさらに大きくさせて目の前にいる人物を見つめた。
ヘルミナはあまりのショックに息を止める。