今宵は天使と輪舞曲を。
彼がメレディスの額にキスを返し、馬に乗って去る後ろ姿が見えなくなるまで、その光景が過ぎ去るのを待つしかできなかった。
花々の匂いを連れて春の風が吹く。けれどもヘルミナは少しも心が浮き立つような感覚を感じとることはなかった。その代わりに、一度は驚きのあまり消え去ったメレディスに対する怒りがふつふつと湧きあがってくる。
なぜ彼女はラファエルに腕を回され、額に口づけられるまでの仲になれたのだろう。自分はブラフマン家に招待を受けたために社交パーティーに行けず、彼とは頻繁に会えず仕舞いだ。互いがどんなに想い合っていても逢瀬を繰り返すことができていない。
彼に求められているとはわかっていても、親に紹介するまでには至っていないというのに!!
たしかに、『君はぼくにとって誰よりも美しい女性だ』と甘く囁いてはくれている。けれどもまだ、馬に乗せて貰えたことはなく、会場でしか会えない。
彼女がラファエルと過ごしている間、自分は彼と会えない日々を送っている。それがどれほど辛いか、メレディスは何も知らない。自分だけが辛い目にあって良い訳がない。少なくとも、メレディスは自分の後に幸せにならなければいけない。それが彼女に定められた運命というものだ。
ヘルミナは右の手に拳を作り、一歩ずつメレディスに近づいていく。
「お帰りなさい、メレディス」
ヘルミナは下がりそうになる口角を目いっぱい上げて目尻を下げる努力をした。