今宵は天使と輪舞曲を。
できるだけ明るい声音を作り、佇んでいるメレディスに話しかけた。
案の定、メレディスはそこにいるはずのないヘルミナの声に慌てて振り向いた。そのグレーの目には驚きと、そして不安の色があった。
「メレディス、どこに行っていたの?」
「……少し、散歩に出かけていたわ」
声は明らかに動揺している。グレーの目が左右に行ったり来たりを繰り返すばかりで焦点が合っていない。
「出歩けるようになったの? 体調が優れないとキャロラインが言っていたけれど?」
意地悪く尋ねる質問に、メレディスは助けを求めるように背後にいるキャロラインへ視線を送っている。
今さら言い訳を考えても無駄だ。もう何もかも知っているし、あらかたの想像はついているというのに……。
ふざけないでほしいくらいだ。ヘルミナの中で怒りが頂点に達した。
「貴女、もしかして男性と会っているんじゃない?」
ヘルミナが両腕を組み、彼女の方へと一歩足を踏み出す。
「どうしてそんなことを言うの?」
メレディスは後退し、下唇を震わせた。明らかに動揺している。その様を見るのがとても心地好かった。
「ごめんなさい、わたし、さっき見たのよ。ラファエル伯爵と一緒に馬に乗っているところを――」
仲良く馬に乗っている場面こそ目撃してはいなかったが、確信があった。ヘルミナは過去に父に連れられて見た演劇を思い出していた。彼らと同じように目を伏せ、大変な場面を見てしまったとショックを受けている様を演じてみる。