今宵は天使と輪舞曲を。
Act Ⅲ・報われない恋。

§ 01***たった一人の……。




 ヘルミナは焦っていた。

 メレディスはあれから現を抜かしていて、ラファエルが自分のことを好きになったとのだと信じて疑わないのだ。

 たしかに、ラファエルは今まで女性とスキャンダルになったことなんて一度もない。ゴシップ誌にも殆どといっていいほど載っておらず、今の今まで紳士を貫き通している。その彼が異性と逢瀬を繰り返しているとなっては、彼女を気に入ったというのもまんざら偽りでもないだろう。


 しかし、それではヘルミナが困るのだ。
 もし、メレディスとラファエルとの仲が決まってしまえば、母のエミリア自身、実の娘ではないことが不本意かもしれないが、没落貴族から抜け出すという本来の野望は叶うことになる。

 そうなれば、ヘルミナとジョーンはお払い箱になって社交界に出る必要がなくなる。そうなれば、社交パーティーに参加するための余計な出費を抑えることもできるし、ふたたび貴族の地位に返り咲くことができるのだ。エミリアにとって悪い話ではない。

 ジョーンは見た目が綺麗だから社交パーティーに出なくても生涯を共にする伴侶を見つけられるだろうが、ヘルミナは違う。何としてでも社交パーティーに出たい。
 
 たしかに、彼と出会う前までは、社交パーティーなんて大嫌いだった。


< 222 / 348 >

この作品をシェア

pagetop