今宵は天使と輪舞曲を。
そんな話を好む無邪気なキャロラインがとても可憐で可愛らしく思える。けれども現実は、そう簡単にはいかないことをメレディスは知っていた。
だからこそ、今、自分はこんなにもラファエルを相手に気を揉んでいるのだ。
メレディスは心配事から遠ざけるためにこの書斎を訪れたのに、それがまったくもって役に立っていないことに腹を立てていた。
「わたしも一緒にいいかしら?」
突然書斎のドアが開いたと思えば、やって来たのはヘルミナだった。メレディスはキャロラインと顔を見合わせたものの、二人とも無言だった。
ヘルミナはエミリアやジョーンのように自分たを着飾るためにブラフマン伯爵の資産を使うのは好きではないらしい。彼女は彼女なりに暇な時間に対処しようとしているように思える。けれども、メレディスはヘルミナに心を許すつもりもなかった。メレディスが伯母たちに虐げられていた時、ヘルミナは参戦こそしなかったものの、彼女ももまた、伯母たちと同じように笑っていたのだから――。メレディスが不愉快になるものの、どうやらキャロラインも同じだったようだ。明らかに表情が曇っている。
とはいえ、いくらメレディスとラファエルを会わせるように仕向けた口実だとはいえ、キャロラインがこの部屋を案内したのはたしかで、今さら彼女を爪弾きにはできない。
キャロラインは黙ってメレディスの様子を窺っている。
オーケー、どうあってもわたしが司令官になるのね。
メレディスはヘルミナに気づかれないよう、小さなため息をついた。
「――いいわ」
主導権を握らされたメレディスは、渋々頷いてみせた。
「ありがとう! わたしも本が好きよ」