今宵は天使と輪舞曲を。
「ちょっと、メレディス。どこに行くの?」
まさか兄の気持ちを疑っているとは打ち明けづらいメレディスは、無言で書斎を出たものの、後ろからふたつの足音が着いてくる。
振り返れば、キャロラインとヘルミナが心配そうな面持ちで立っていた。
どうやら観念しなければならないらしい。メレディスはあからさまに大きなため息をついた。
「メレディス、答えてよ!」
「わたし、ラファエルに会いに行くわ」
ヘルミナは、「まあ!」と驚いた様子で両手で口元を覆っている。
――わざとらしい。
人魚のお伽噺を持ち出して散々こちらを刺激しておいていったい何がしたいのだろうか。
とはいえ、昔からヘルミナはそういう女性だ。今さらだと思い出したメレディスはキャロラインに向き直った。
「だってあれから三日も経つのに彼からの連絡がまったくないのよ?」
男性に会いにいくなんて淑女として不作法ではある。けれども自分は生憎、没落した貴族の出。
今さら体裁を気にする身分でもない。それに世間体とか他人の目なんてどうだっていい。何より彼が自分をどう思っているのかを知りたかった。
「そうね、わかったわ。馬を貸してあげる。前に貴方が乗った子で良い?」
「ありがとう、キャロライン」
「気をつけて行ってきてちょうだいね?」
「メレディス、また後で」
キャロラインに続いてヘルミナも手を振った。
「ありがとう、また後で」
メレディスは見送ってくれた二人に挨拶を交わした。ほんの少しの違和感を感じたが、その正体が掴めない。