今宵は天使と輪舞曲を。
――それに何より、今優先すべきはラファエルの気持ちを確かめることなのだ。メレディスは生まれた違和感をそのままに手綱をとった。
いくら自分が没落した成り下がりの貴族とはいえ、自分の名前が面白可笑しくゴシップ誌に書かれるのはお断りしたい。そこでうまく草木に隠れられるよう、目立たない深緑色の姿で厩舎に向かうことにした。
もともと義姉たちのような綺麗なドレスを持っておらず、どれも着古したものばかりの衣服が多かったのは不幸中の幸いだ。着古した服がまさかこんな時に役立つとは思いもしなかった。この姿なら、誰が見ても村娘同然で、貴族の出だとは誰も思わないだろう。
馬を走らせラファエルが経営する厩舎に近づけば近づく分、少しずつ不安が身をもたげてくる。
もし、彼が自分との過ごしたひとときをただの遊びだと思っていたなら――。
ピッチャー男爵のように憐れな娘を擁護する凛々しい紳士として周囲にアピールするために近づいたのなら――。
それを知った時、果たして自分はどんな態度をとるのだろうか。
今でさえ、不安に苛まれ、胸が押し潰されそうに痛んでいる。果たしてこの苦しみに耐える力は残されているのだろうか。
メレディスは乱れる心臓の鼓動をなんとか静めようと深く息を吐いた。歩を進める足は次第に鉛のように重くなる。それでも自分の心を奮い立たせて手綱を握った。
ラファエルが経営している厩舎は広く、緑豊かな牧草地帯が続く先にある。メレディスは人目につかないよう馬から降りると、近くの木々に手綱を繋げた。