今宵は天使と輪舞曲を。
「おかえりなさい、早かったのね……メレディス? どうしたの? ラファエルと何かあった? 貴方、ものすごい顔をしているわ」
いったいどんな顔をしているのだろうか。
そう思うメレディスだが、今はとにかく胸が引き裂かれんばかりの痛みを訴えていて、それ以外何も考えられなかった。
「……貴女もグルだったの?」
「何を言っているのかわからないわ」
「ラファエルは男性を知らないわたしの反応を愉しんでいただけだったわ。貴女もそうだったの?」
「ラファエルが遊びで女性といたことなんて今までになかったし、これからもないはずよ!」
キャロラインを問い詰めても、彼女は首を左右に振るばかりだ。
「でもわたしは見たのよ! 女性と愉しそうに抱擁を交わしているところを、この目で!!」
「メレディス、落ち着いて。何かの間違いよ。兄は商談をしていたのではない?」
「商談? 男性が女性の耳元で囁いている姿が商談? 落ち着けるわけがないでしょう? だってわたしは没落貴族で家族はもういない。蔑まれて育ったわたしは貴女とは立場が違うのよ! わたしもまた、人魚姫のように泡になって消えてしまう愚かな存在なのよ!」
メレディスは自分が惨めになって仕方がなかった。熱くなった目頭から涙が込み上げてくる。視界が滲んで目頭を押さえても涙は消えなかった。書斎から部屋に戻る気力もなかった。だからそのまま屋敷から飛び出した。