今宵は天使と輪舞曲を。
屋敷から飛び出す途中で数人のメイドとすれ違ったが、メレディスは涙を隠そうとはしなかった。――もう自分の不器量さを隠す力も残っていなかったのだ。
体裁なんてどうでもいい。両親を失い、居候の身として過ごす自分にとって、もともとそんなものはないのだから。他人の目を気に出来ないくらい、メレディスの心はズタズタに引き裂かれていた。
なんて愚かなのだろう。彼と自分がまったく同じ気持ちなのだと勘違いしてしまうなんて!!
――そう、自分はラファエルに恋をしてしまっていたのだ。それも身を引くことができないところまで……。
こうなることが怖かった。だからあんなに近づかないよう努力していた。
それなのに、引力とは恐ろしいものだ。ラファエルとの会話は楽しく、そして女性をおもんばかる、誰よりも気高い紳士だったことに気づけばもう遅い。
本能はあんなに危険だと警告していたのに自分の身の程を考えることもなく、伯爵に恋心を抱くなんてとんだ間抜けもいいところだ。
彼の結婚をゴシップ誌に載るのも時間の問題だろう。そしてそれを目にした自分はどれほどの苦痛と悲しみに苛まれるだろうか。彼にはやがてあの女性との間に固い絆が結ばれて仲睦まじく過ごすのだ。
けれども彼を責める権利はメレディスには無い。
だって彼はメレディスに愛を告げたこともないのだから。
勘違いをしたのはメレディスの方。
間違いなく、自惚れていただけなのだから――。
どれくらい走っただろうか。絶望感で重くなった足は縺れ、草むらに体を打ちつけた。
メレディスは叶わない恋に絶望し、泣いた。
《悲恋。・完》