今宵は天使と輪舞曲を。
もし、メレディスが拐かしに遭遇している最中にキャロラインが遭遇してしまえば、雇われた彼らは自分たちを裏切る可能性がある。そうなれば、この計画を立てた自分たちの立場が危ぶまれる。
彼女の行動をなんとか阻止しなくてはすべての計画が水の泡だ。
「どこに行くの?」
慌てたヘルミナはドアを開けてキャロラインと遭遇した。それと同時に、他のメイドたちに連れられて家令もやって来た。
「お嬢様、屋敷の者が皆慌てております。いったいどういうことでございますか」
家令は威厳に満ちた態度でキャロラインを見下ろしていた。いかに老いていようとも、彼の射抜くような視線と態度は少しも衰えておらず、万が一、キャロラインの我が儘からの発言であれば、彼は幼子を叱咤するような姿勢も見受けられる。
けれども、キャロラインは怖じ気づくこともなく、尖った顎を突き出した。もはや今の彼女にはたとえ目の前にお腹を空かせた大きな猪であっても立ち向かうだろうとヘルミナは思った。
「これから兄さんに会いに行くわ」
「どういうこと?」
「メレディスが屋敷から出て行ったの。メレディスが言うには、兄さんが女の人と抱き合っていたっていうのよ。あんなに女性が苦手だったのに、抱き合うなんて有り得ないわ。真相を掴んでやるのよ!」
そこまでヘルミナに話すと、彼女は家令と向き合った。
「止めても無駄よ、決めたんだから!」