今宵は天使と輪舞曲を。
§ 04***兄と妹。
時刻は夕刻一八時を回っている。今日は来客の予定もないはずだ。
果たして今時分に何の用だろうか。
この屋敷で働いてくれているラフマが帰宅時間を迎え、見送りに出向いていたラファエルは、緊張感を漂わせるようなドアのノックに顔を顰めた。それは彼女も同じようで、ラファエルに視線を送っている。――が、やはりラファエルに思い当たる客人の予定もいなかったので肩を竦めて見せた。
こうしている間も戸を叩く音は鳴り止まず、それどころかより激しくなっている。これは尋常ではない。
ラフマが首を傾げながらも取っ手に手をかけると、小柄な女性――妹のキャロラインが勢いよく入ってきたではないか。これにはラファエルもラフマも驚きを隠せなかった。
「キャロラインお嬢様?」
「ラファエル!」
キャロラインは真っ赤な顔で肩を怒らせていた。
「キャロライン、どうしたんだ? バルトも一緒なんて何かあったのか」
まさか今時分に、しかも家令も一緒だなんてこれはいったいどういうことだろう。
「どうしたんだ、じゃないわよ!! 兄さん、女性と密会をしていたって本当なの?」
「密会?」
キャロラインの言っている内容が今ひとつよくわからない。
胸の前に拳を作り、今にも飛びかかってきそうな妹を落ち着かせるため、ラファエルは両手のひらを彼女の前に向けて降参する。
どういう時であっても男は女性に刃向かうことは許されない。さもなければ後で痛い目を見るのは男性陣なのだ。少なくともブラフマン家ではラファエルたちはそう学んでいた。