今宵は天使と輪舞曲を。

 ――殊更、彼女の親友であるキャロラインは特に、だ。

「とにかく、ぼくは隠れて女性と会うような真似なんてしない」
 もしラファエルが密会を望む女性がいるとすれば、メレディス・トスカ。彼女ただひとりだけだ。

 ああ、そうだ。彼女とふたりきりで会うためならどんなことだってやり遂げてみせる。ラファエルにとって彼女には貴族という世間の体裁さえも無視する価値がある。

「じゃあ、誤解を解いてあげて。メレディス、傷ついていたみたいで屋敷を飛び出したの」

「なんだって? この時分にか? 暗くなると危険だ! 最近暴れ猪が出たと目撃情報が入っているんだ」
「まあ!」とラフマ。

 ラファエルは首を振った。メレディスが猪に遭遇した光景を想像するだけでも恐ろしい。

「バルトも猪が出るって言ったけれど、本当なの?」
「ああ、領民が何度か目撃している。実は明日にでもグラン兄さんと狩りに出かける予定をしていたんだ」
「まあ、お兄様もお戻りになるの?」

 ラファエルがキャロラインと深刻な話をしている最中、突然発せられた黄色い声に驚いた。そこでラファエルは今の今までキャロラインの後ろに控えていた女性の存在に初めて気がついた。ラファエルは後ろに控えていた女性を見下ろした。

 彼女は今自分がどんなに愚かな質問をしているのか理解しているのだろうか。
 とにかく、メレディスを探すためにはコートが必要だ。それと万が一猪と遭遇した時のための猟銃。


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