今宵は天使と輪舞曲を。
ラファエルが踵を返すと、ラフマはラファエルの考えを読み取ったかのようにコートと猟銃を持って現れた。
「ああ、そうだ。猪を退治するためにね、ミス・ヘルミナ」
くそっ! ボタンが多すぎる!
ラファエルはコートに袖を通すと六つのボタンを嵌めるのに手間取った。あまりにも手間取りすぎたおかげで心の中であらゆる悪態をついてしまう。何もかもが忌々しく感じて眉間に深い皺を刻んだ。ミス・ヘルミナが口を閉ざしてくれさえいればすべてが上手くいくような気さえする。
「そんな……。馬はきちんと厩舎に戻っているし、きっと遠くに行っていないはずよ、兄さん。お願いメレディスを見つけて!!」
キャロラインはヘルミナの存在に無視を決め込んでいる。自分とは違い、妹はミス・ヘルミナの対応には慣れているようだ。
「そんなに慌てなくても大丈夫よ、だってメレディスは馬に乗ってないんでしょう? そう遠くに行っていないならすぐ見つかるわ」
ヘルミナが言うと、キャロラインが睨んできた。
どうもこの兄妹は……いや、ブラフマン兄妹だけではない。ブラフマン家の家令もメイドたちもメレディスの肩を持つ。デボネ家や社交界では居候のメレディスなんてまるで蚊帳の外なのに、メレディスをひとりの人間として接している。ブラフマン家といると異世界に迷い込んでしまったようだ。
「とにかく、ぼくは彼女を探す。キャロラインたちはここに居てくれ」
ラファエルはラフマから猟銃を受け取り、弾の確認をした。出かける準備を始めている。