今宵は天使と輪舞曲を。
掠れる葉音が少しずつ大きくなっている。
――いや、気のせいなんかではない。
前方から葉が擦れる音が聞こえたメレディスは喉を鳴らし、新たにやって来たそれが自分にとって、さらに状況を悪化させるものだということを悟った。
目だけを動かして音のする方へと照準を合わせると――あれはいったい何だろうか。こちらに向かってやって来る四つ足の大きな影が見えた。
メレディスは目を細めた。
「おい、あれは何だ!?」
メレディスに続いて声を上げたのは背後にいる男だった。ナイフを持っている男はそう言うと草むらの方に蝋燭の火を翳した。
「猪だ!!」
通常の猪よりもひと回り以上も大きい。この辺りに住むヌシかもしれない。他に猪の姿はないが、季節は春。もしかするとこの近くにうり坊がいて、彼らを守ろうとしているのかもしれない。
男が叫んだ瞬間――メレディスは拘束が緩んだ機会を見逃さなかった。
すぐに男の手から逃れると元来た道へ走る。とにかく、猪から逃げなければならないと身の危険を本能が知らせていた。急いで猿轡を外し、息も絶え絶えになりながら懸命に走る。
後方から男たちの悲鳴が聞こえた。おそらくは猪と衝突したのかもしれない。次は自分かもしれないと思うと恐ろしくてたまらない。恐怖で縺れそうになる足をどうにか動かし、逃げる。
しかし相手は野生の動物だ。しかも今までに見たことのない巨大な猪だった。どう考えても力は愚かスピードですらもメレディスに勝ち目はない。