今宵は天使と輪舞曲を。
そこで彼は息を飲んだ。
どうやらドレスの一部が裂けているのが目に入ったらしい。
メレディスは改めて自分のはだけたドレスの部位を見下ろし、谷間が露わになっている様子を見た。裂けたドレスは繊維を綺麗に断ち切られている。
明らかにナイフのような鋭利な刃物によるもので、獣によって引き裂かれたものではない。知識のない素人のメレディスでもすぐに理解できる。
「……この林にいるのは猪だけではなさそうだな」
通常よりも響くような低音はどこか威嚇しているようにも聞き取れる。
顔を見なくても声を聞いただけでわかる。彼の機嫌は今、とても悪い。それほどメレディスの身を案じてくれているのだと思った。
――けれどもそれは妹の大切な友人だから?
それとも火遊びの相手だから?
メレディスを傷つけられて怒る理由はいったい何だろう。
「乱暴されたのか?」
「確かめてみる?」
ラファエルの問いにメレディスが挑むように訊ねると、ラファエルは低い声で呻り、喉を鳴らす。
獲物を見るような獣の目は貪欲に光をなくしている。自ら彼を誘惑したメレディスだが、途端に緊張が走る。
果たして彼ほどの男性が貧しく見窄らしい自分を女性として見てくれるのだろうか。
たしかに彼はメレディスを火遊びの相手として見ている節はある。けれどもそれはただの気の迷いかもしれない。
自分には女性の器量も何もないのだ。
不安でたまらない。緊張のあまり口が渇く。メレディスは自分を宥めるために下唇を舐めた。
しかし彼女のその仕草こそがラファエルの欲望を掻きたてることを知らない。