今宵は天使と輪舞曲を。

 きっと彼らは会場に現れた自分を見るなり幽霊だと思うに違いない。
 あかぎれを起こしている手にはドレスと同じ色をしたオーガンディーのグローブをはめている。グローブは薄手で心もとないものの、何もないよりはいい。汚らわしい手を他人に見られる心配はまだ少ないはずだ。

 こんなにも見窄らしい自分の姿なんて見たくもない。メレディスはそっと瞼を伏せ、これから起こるだろうブラフマン家での出来事から一切を考えまいと切り離した。

 メレディスにとって、現実逃避はごく簡単だった。要は自分が作った想像の世界に浸ればいいのだ。そうすることこそが彼女をこの世界から切り離す唯一の選択肢なのだから。

 そしていつものように会場へ入って壁に移動し、人々から自分という存在を消すのだ。二年にもわたって繰り返しているおかげでコツは掴んでいる。

 息はできるだけ浅く、そして口を閉ざし続ければいい。

 たとえ、『愛想がない』とか、『陰気な娘』などという陰口をたたかれても聞こえないふりをすればいいだけのこと。

 どんなに胸が痛んでも、どんなに居心地が悪くても身動きひとつせず、無表情でいさえすればいい。

 大丈夫、今夜だってちゃんとやれる。だっていつもこうして他人の目をかいくぐっているのだから――。

 ――そう。たったひとりの()を除いては……。

 そこでメレディスは顔をしかめた。

 ああ、どうしよう。今夜のパーティーもきっと彼がいる。なにせ彼もまたデボネ家同様、ブラフマン家に呼ばれない理由はないのだから。

 とにかく、是が非でも方法を探さなくてはいけない。
 会場で透明人間になる方法を――。


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