今宵は天使と輪舞曲を。
「そうやって唇を舐めるのは君の悪い癖だ……」
ラファエルは言うなり噛みつくようにメレディスの唇を塞いだ。
とたんにラファエルに口づけられたメレディスの思考は停止する。代わりに体中へ電気が走り、熱が灯った。
鼻孔をくすぐるのは微かに香るスパイシーな汗の匂いだ。懸命に馬を走らせ自分を探していたのだろうことがすぐに想像できた。
彼の手がメレディスの腰を引き寄せる。
メレディスは彼の口内で短いため息をついた。
彼といるといつもこうだ。発火するような熱が宿る。そうかと思えば思考は停止し、全身の力が抜けていく……。
メレディスはいつの間にか彼に体を預け、分厚い胸板に頬を寄せた。恐怖で強張った体を彼が奏でる心音で宥めてくれる。彼こそ自分の居るべき場所なのだと魂そのものが告げている。
ラファエルの腕に包まれると、ようやく心の平穏が訪れた。けれどもその平穏は長くは続かない。ラファエルの胸が短い間で膨らんだり萎んだりを繰り返していたからだ。
「猪に襲われる前、二人組の男の人に体を触られたの」
メレディスはラファエルから視線を外し、俯き加減で話した。
声は小さく、聞き取るにもやっとだ。それでもラファエルはしっかり聞き取ってくれた。
ラファエルの息を呑む音が聞こえる。
メレディスは彼の形相を見なくてもわかった。
「さっ、触られたといってもドレスの上からだし、特に大したことはなかったのよ」