今宵は天使と輪舞曲を。

§ 06***親友。




「猪がいた」
 ラファエルは屋敷に着くなり、そう話してすぐに口を閉ざした。
 伸びてきた二本の細い腕によってメレディスは包み込まれた。キャロラインはメレディスが無事だったことをとても喜んでくれた。実際にはメレディスが襲われそうになったのは猪だけではなかったが、ラファエルはその一件を伏せてくれた。メレディスも自分の身に起きた出来事を説明するのも苦痛でたまらなかったから、何も言わなかった。
 顔も知らぬ男二人に襲われた、たった数分間が死を迎えるのと同じくらいの恐怖を感じた。

 メレディスもキャロラインに身を寄せ、人肌を感じてほっとした。まさかヘルミナが一緒にいるとは思わなかったが、エミリアとジョーンが外出しているのなら、この場にいること自体考えられる。――それにしても、ヘルミナの顔色が疲労しきっている。メレディスよりもずっと悪く見えるのは気のせいだろうか。
 メレディスはヘルミナに顔色が悪い理由を尋ねてみたかったものの、今日は色々なことがありすぎて疲れていた。今は何も考えず、体を清めて眠りたかった。
 ありがたいことに、ラファエルはメレディスの今の状況を理解してくれていた。彼は、また猪に襲われる可能性もあるからと、用心のために馬車を出してまで送ってくれたのだ。
 しかし、陽はすっかり暮れている。ラファエルまで猪に襲われては二の舞だというキャロラインのひと言で、彼もまたブラフマン伯の屋敷に泊まることになった。
 一番驚いたのはエミリアとジョーンだ。


< 252 / 358 >

この作品をシェア

pagetop