今宵は天使と輪舞曲を。
「そんなことはないわ! キャロラインにはいつも助けてもらってばかりなの。わたし、そのことをすっかり忘れていて、世界で一番不幸だと思い込んでしまったわ。深く反省しているの」
「はい、この話はもう終わり。で、どうだった? 例の女性について屋敷に戻る途中でラファエルは何か話した?」
「いいえ、やっぱりわたしは眼中にないみたい。話す価値もないっていうことでしょう」
屋敷に向かう途中、馬に乗ったラファエルは石像のように無言で、表情も硬かったのをおぼえている。
彼はただ、メレディスを運ぶことだけに専念しているようだった。
「口づけくらいは交わしたでしょう?」
「……でもそれはただの挨拶みたいなものかもしれないわ」
たしかに、ラファエルが側に駆け寄ってくれた時、熱い抱擁と交わした口づけで、彼がメレディスのことをとても心配してくれていたのだと判った。
メレディスが男二人に襲われたと口にすると怒ってくれたし、その足で彼らを捕らえようともしてくれた。
けれどもいざ馬に乗ると顔は硬く、無言だったのだ。あの情熱的なひとときが何を示すのか、メレディスにはよく判らなくなっていた。
「兄さんが? 挨拶で口づけ? あの女性嫌いが? メレディス、貴方はラファエルを知らないから仕方がないかもしれないけれど、そんなの考えられないわ。この結果、もう少しわたしなりに調べるから、兄さんのこと諦めないでほしいの。お願い」
「……わかったわ」
キャロラインに頼まれたものの、メレディスはこの恋を諦める方法すら判らないのだ。
力強いラファエルの腕の感触がまだ肌に残っている。メレディスは細いため息をついてそっと目を閉じた。
《親友・完》