今宵は天使と輪舞曲を。

§ 07***ラファエルの災難。




 ブラフマン兄弟にとって、今朝は特に災難だった。
 昨日、メレディスが猪と拐かしに遭遇した一件から早朝を迎えたラファエルは兄グランと合流し、銃を持って拐かし二人の捜査と暴れ猪を山へ追い返すべくひと仕事を終えた二人だった。
 猪の方は銃で威嚇し、どうにか山奥へ追い払ったものの、残念ながら例の拐かしの行方は知れず、メレディスに拐かしにあった当初の出来事をもう一度確認し、情報を整理し終えてからの捜査に切り替えようと屋敷に戻ったのだが、彼らにとってそこからがまた災難だった。
 その災難とは、デボネ家の人間がずっと二人に質問攻めだったことだ。ラファエルとグランは、まるで殺人容疑で裁判の尋問を受けているかのようだと思った。
 しかしながら早朝から出かけたおかげで腹が空いていたことで、早めの昼食を摂りながらの尋問を受けていたことだ。おかげで食事に集中していた二人は尋問の殆どを聞き流し、食べることに意識を置いていた。

 ――とはいえ、ラファエルにとって、一番の災難はエミリアが愛娘ジョーンを結婚相手に選んでくれるよう説得をはじめたことでもない。昨夜、メレディスを襲った拐かし二人の姿を発見するどころか骨さえも拾えなかったことだ。

 そういうことで、ラファエルは今朝からずっと不機嫌だった。せめてもの救いはキャロラインが彼女の側にずっと付き添ってくれていたことだ。
 おそらくは昨夜の一件で彼女はろくに眠りにもつけていないだろう。そんな中で、この耳鳴りがするようなデボネ家の黄色い声で食事をしようものならきっと気が狂ってしまうだろう。なにせラファエルとグラン自身が今、まさにそんな心情なのだから。


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