今宵は天使と輪舞曲を。
ただでさえ気が立っているというのに、ひと仕事を終えて帰宅してからこの調子。こんなお出迎えをされては流石の二人も苛立ちを隠せない。――昨夜のメレディスが襲われた一件もあって、ラファエルは特にそうであった。もちろん、デボネ家の人間にも拐かしの件は伏せていた。――それというのも、事が公になれば捜査がやりにくくなると考えたからだ。
この件を知っているのは当事者であるメレディスとラファエル。そして兄のグランだけでいい。
そして今は外出中ではあるが、屋敷の主人であるモーリスとレニアには知る権利があるものの、それ以外には漏れない方が良いと二人は判断した。
……しかし、である。
ラファエルにはひとつの疑問が頭から離れない。
その疑問とは、ヘルミナのことであった。
昨日のショックでメレディスとキャロラインの姿が見えないのは理解できる。しかしヘルミナが姿を現さないのはいったいどういうことだろうか。
そこでラファエルはエミリアに訊ねた。
「ミセス・デボネ。ミス・ヘルミナはどちらにいらっしゃるのですか?」
「そう言えば、今日はまだ姿を見せておりませんね」
「昨日、あんなことがあった後だもの。怖くて眠れなかったのではなくて?」
エミリアの後に続いてジョーンが答えた。
「ええ、きっとそうね。あの子、とても気が弱いから――猪に襲われたのを聞いて自分も襲われるのかもしれないと不安に思っているのですわ」
そこまで話すエミリアは、名案を思いついたかのように両手を合わせた。