今宵は天使と輪舞曲を。
「そうですわ! グラン様、ラファエル様、どうか後でヘルミナに心配することはないとお伝えいただけませんか? このままでは餓死してしまいますもの。心配で心配で……」
エミリアの言葉はあまりにも露骨だった。今の今まで繰り出される二人の会話からどう考えてもヘルミナを心配する様子は少しも見当たらなかったからだ。
「グラン様、ラファエル様。また猪が襲って来たらどうしましょう。わたし、怖いわ……」
「ジョーン、気をつけなくてはいけませんわね。グラン様、ラファエル様、どうぞ娘のジョーンを守ってやってください!」
二人の会話があらぬ方向へと向かっている。彼女たちはどうあっても自分たちが有利な方へ考えたがっているようだ。
なんとも馬鹿げたものだと、ラファエルとグランは顔を見合わせ、小さく肩を竦めた。
――とはいえ、この地獄のような会話がこれ以上続くことはなかった。
会合を終えたブラフマン夫妻が帰宅したからだ。
両親の帰宅は二人にとって救いの神のように感じた。
玄関ホールへと足早に向かえば、エミリアとジョーンも後を追ってくる。ラファエルはそれさえも苛立った。
――いったい何事だろうか。
玄関ホールがやけに騒がしい。モーリスとレニアは眉を潜めた。
「おかえり、父さん、母さん」
「まあ、ラファエル、それにグラン。貴方たちいったいどうしたの?」
モーリスとレニアは突然の顔触れにとても驚いてみせた。