今宵は天使と輪舞曲を。

 大丈夫。きっとわたしなら上手く対処できる。

 メレディスは自分にそう言い聞かせ、目を開けた。しかし残念なことに先ほどよりもずっと居心地が悪くなっている。目は左右を行ったり来たりを繰り返し、おまけに脈も早い。

 メレディスは喉を動かし、込み上げてくる不安と恐怖を飲み込んだ。



 ――やがて目的地が見えてきた。平地と家々がぽつりぽつりと続く中、遠く離れていても分かるいっそう大きな屋敷を見たメレディスは襲い来る緊張で胸が押し潰されそうだった。


 デボネ家を出た当初よりもずっと暗く、時計塔の針は十一時を指している。頭上では闇夜の中で佇む下弦の月が星々に囲まれて悠然と存在していた。

 馬車は走るスピードを緩めて大門をくぐり抜ける。屋敷の敷地内に入ると明るい外灯がメレディスたちを出迎えてくれた。アーチ状に広がる庭園の入口にはアイビーに入り交じって桃色の薔薇の蕾がついている。

 ブラフマン家はメレディスが想像していたよりもずっと広かった。メレディスたちが到着する前にはすでにたくさんの貴族たちが会場にいるようだ。芝生が広がる大きな敷地内には無数の馬車が停めてある。

 この時だけのために雇った御者(コーチマン)が馬車のドアを開けた。まずはじめに屋敷の主人であるエミリアを下ろし、それからジョーンとヘルミナ。最後にメレディスを下ろした。

 ブラフマン邸の外観はまるで王族の城だ。広大な敷地に広がる二階建ての屋敷には縦長の窓が無数にあり、屋敷内の明かりが漏れている。


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