今宵は天使と輪舞曲を。
先刻、キャロラインが領地を訪れ、領民たちに困り事や不自由がないかを聞き取りに行った際、暴れ猪の報告を受けていたのは知っている。ブラフマン兄弟はもともと今日狩りを実行する予定だったのだが――。
兄グランとラファエルは世の女性を毛嫌いしている。だから当然、彼らはこの屋敷に訪れることなく与えられた仕事をこなすだろうとブラフマン夫妻は考えていたのだ。
それがどうだろう。兄弟揃ってこの屋敷に立ち寄るなんて――。
いったいどういう風の吹き回しなのだろうか。夫モーリスもそうだが、特にレニアは眉根を寄せて穴が空くほどラファエルを見上げていた。
母親の思考を瞬時に読み取ったラファエルは小さく首を振り、それから静かに口を開いた。
「――昨夜、猪が屋敷近くまで下りてきたんだ。ミス・トスカが襲われた」
「まあ!」
ラファエルの第一声に、夫妻は顔を見合わせて口を紡いだ。
「ミス・トスカは幸い軽傷で済んだものの、襲われたショックもあってね。今はキャロラインの部屋に一緒にいる」
両親を落ち着かせる為にグランはラファエルに続いた。
そこでここが自分の出番だと思い込んだエミリアは、いかにも自分が良識のある人間であるかをブラフマン家の全員に思わせるため、口を開いた。
「あの子のためにここまでしてくださったご兄弟お二人にはとても感謝いたしますわ」
「本当にもったいないくらいよ。猪に襲われたのだってメレディスがぼうっとしていたのが悪いくらいなのに……」
母親に続いてジョーンも続けた。