今宵は天使と輪舞曲を。
「まあ! それはお大事になさってくださいね。ミセス・デボネ、ミス・デボネ、長旅で少し疲れていますので私たちは失礼いたしますわ。ラファエル、グラン、狩りの件、詳しく聞きたいわ。居間でゆっくり聞かせてもらえるかしら?」
流石はレニアだ。ラファエルの顔色に気づいた彼女はそう言うとラファエルの手の甲を宥めるように優しく叩いた。
居間に着くと、黄色い声がなくなったことに四人はほっと息をついた。
特にラファエルは、ようやく真実を話せることに安堵した。彼は口火を切って話しはじめた。
「父さん、母さん! 猪が出ただけじゃないんだ。ミス・トスカが拐かしにあった」
「それも、ぼくたち目と鼻の先の、この屋敷の敷地内で、だ」
グランも続いた。
「なんですって?」
「ミス・トスカは無事だったのか?」
「ああ、彼女は無事だ。早朝の猪狩りも含めて彼らを捜したが影も形も見当たらなかった。もちろん、骨すらも――」
ラファエルが語った内容が両手塞がりだということをあらためて思い知ったグランはお手上げだと言わんばかりに大袈裟に肩を竦めた。
「猪はとりあえず鉄砲で威嚇して山奥へ追いやったからまずは問題ないだろうが、本能で動く動物より人間の方がよっぽど厄介だね」
「外出していてすまなかった」
「いや、父さんたちは寄り合いがあったんだ留守にするのも仕方がないよ。ぼくらにとってもこれは予想すらしていなかった出来事だった。防ぎようにないことだったんだ」