今宵は天使と輪舞曲を。
「とにかく、お前が近くにいてくれて良かったよ」
モーリスはラファエルの存在に感謝し、彼の肩を軽く叩いた後、呻るように続ける。
「ラファエル、お前が《彼ら》と言うからには複数による犯行なんだろうね、目的はいったい何かな。なぜ今になって現れたのか、見当もつかない」
「この一件はわたくしたち以外で誰が知っているの?」
「襲われたミス・トスカだけだ。キャロラインにも話していない。彼女が打ち明けていなければ、の話だが――」
グランが答える。
「これからミス・トスカと話をしようと思っている。犯人像が判るかも知れないからね」
事件当初に起きた出来事を話すのは彼女にとって酷だろう。しかし、それしか解決の糸口が見つからないのだ。そのことを考えると、ラファエルは酸っぱい胃液が食道を通って口の中に込み上げてくるのを感じた。
「そうね、それがいいわ」
レニアは小刻みに首を振った。けっして名案とは言い切れない口ぶりだ。彼女もまた、ラファエルやこの場にいる皆と同じ気持ちなのだ。
「父さん、書斎を借りるよ。彼女と話がしたい。昨夜のことを詳しく知りたいんだ」
「かまわない。好きに使ってくれ。本当は主人たるわたしが聞く立場ではあるが、当事者の方が話しやすいだろうね。また何か判ったら教えてくれ。もちろん、答えられる範囲で構わない」
「ありがとう、父さん」
「いやいや、それはわたしたちのセリフだ。お前たちがいてくれて心から感謝するよ」