今宵は天使と輪舞曲を。
「貴方たちは自慢の子供たちよ。もちろん、キャロラインもよ!」
レニアは息子ふたりに微笑みかけ、モーリスはラファエルとグランの肩を抱いた。
両親は自分たち兄弟の意見を十分尊重してくれている。貴族の中でも類い希なる手腕を発揮し、すでに鉄道などの経営すら手がけている兄のグランはともかく、ラファエルも一人前の紳士としてこの一件を任せて貰っている。
このことがラファエルにとって何よりも嬉しかった。
居間から出た二人はメイドにメレディスを書斎へ連れて来て貰えるよう話した。
一階にある書斎に向かう道すがら、ラファエルは怖じ気づいてしまいそうになる背中を押してくれる兄の存在が有り難く感じた。
「兄さんが来てくれて嬉しいよ」
自分よりもずっと大人で、類い希なるリーダーシップを発揮するグランはラファエルにとって良き見本でもあった。
メレディスに昨日の辛い出来事を思い出させるのはとても心苦しく、できるなら忘れて貰いたいとさえも思ってしまう。しかし、それでは事件の解決にもならず、逃げているだけだ。それにこのまま何も無かった事にしてしまうと彼女をふたたび危険に晒す恐れがあるのだ。
「昨夜、彼女はとんだ災難だったな、猪と拐かし。立て続けに二度も襲われるなんてな」
「ああ」
幸い掠り傷程度の軽傷で済んで良かった。
心の傷は別として、だが――。
そして彼女の心の傷についてはラファエルにも心当たりがあった。
そもそも彼女が襲われるきっかけになったのは、屋敷を出たことにある。