今宵は天使と輪舞曲を。
日焼け知らずの陶器のような肌のフェイスラインを伝うようにして流れるひと束のプラチナブロンドは発光しているようにも見えた。彼女はまるで航海者を惑わすセイレーンのようだ。
彼女はこの屋敷にやって来て以来、食事も与えられ、規則正しい生活を送っている。痩けていた頬や目の下にあった青白い隈が消え、以前とは見違えるように美しくなったとラファエルは思った。そしてそれはグランも同じだったようだ。彼は前に進み出ると彼女の前に手を差し出した。
「お会いできて嬉しいよ、ミス・トスカ」
「わたしもですわ、ミスター・ブラフマン」
「グランでかまわないよ」
「ではグラン。わたしもメレディスで構いませんわ」
「それは良かった。実はいつ舌が縺れるかと不安に思っていたんだ」
グランが冗談を言うと、メレディスが笑った。右頬に見えるえくぼがへこんでいるおかげで微笑んで見えるものの、やはり心から笑えていないようだ。
ラファエルは彼女の笑顔がどれほど美しいのかを知っていた。
二人のやり取りを大人しく見ていたラファエルだが、グランが彼女の手に触れ、手の甲に挨拶を交わそうとする光景を目にすると直ぐさま割って入った。
隣を見れば、兄はにやにや笑っている。きっとグランは女性に見向きもしなかったラファエルが彼女に対する態度が違う事に気づいたのだろう。
――なんとでも思えばいい。
ラファエルはグランを睨みつけ、ひとつ咳払いをすると本題に入るため、目を丸くしているメレディスと向き直った。