今宵は天使と輪舞曲を。

 その問いに、メレディスはすぐさま口を開いた。グレーの目にラファエルが写し出される。
「考えられるとしたら貴方よ」
「ぼく?」
 彼女の言葉に真っ先に驚いたのはラファエルだ。
「ええ」
「たしかに。彼女はぼくたちの領地にいる」
 グランも頷いてみせた。

「貴方が身を固めればすべて解決するかもしれないわ。だってわたしを妬む人間がいるなんてありえない」
 メレディスは両腕で自分の身体を包み込む。
 二人の鋭い視線がラファエルを貫いている。

 彼女が言わんとしていることは分かる。キャロラインの話によれば、ラファエルが心に決めた女性がいるのに三度にもわたって口づけたのだ。自分が遊ばれていると思い込んでいる。もちろん、ラファエルにとって、女性との火遊びなんてとんでもない誤解だ。
 女性として興味が湧いたのは過去にも現在にもただひとり、メレディス・トスカだけだ。とはいえ、まだ会っていた女性が誰なのかを打ち明けることは出来ない。ラファエルはメレディスの非難する目に堪えるしかなかった。

 ――しかし。しかしである。
 なぜ、兄のグランにまで軽蔑の眼差しを受けるのかが分からない。
 なにせ兄にはメレディスと口づけを交わしたことを話したこともないし、況してや女性と会っていたことさえも知らないはずなのだから。
 ラファエルは眉間に皺を寄せ、グランに向けて口だけで彼を罵った。
 グランは口を一文字にして肩を竦めてみせた。


< 269 / 358 >

この作品をシェア

pagetop