今宵は天使と輪舞曲を。

 目の前にそびえ立つブラフマン邸を見たエミリアは小さく頷き、ジョーンは満足そうにため息を漏らす。

 どうやら彼女たちはすっかりこの家の主になったつもりでいるらしい。

 たったの数分前にこの屋敷へやって来て、ただ外観を見ただけなのになぜこうも自信たっぷりでいられるのかメレディスにはさっぱり分からない。

 メレディスはエミリアとジョーンの顔にさっと視線を向けたのち、今もまだ無言のヘルミナを見た。

 ああ、なんてことかしら。彼女の顔色はますます悪くなるばかりだ。顔を真っ青にしたヘルミナを見ていると、今夜自分が無傷で終わるとは到底思えなくなっている。



「さあ、参りましょうか」

 そんな娘たちの心情を知ってか知らずか、エミリアは静かに声をかけると扉をノックした。

 エミリアのノックを合図に大きな扉が開く。そこには家令(ハウススチュワート)が背筋を伸ばして待ち構えていた。

 年齢は七十歳あたりの老人のようだが、黒の燕尾服に蝶ネクタイ、ズボンに身を包んだ細身の体型。さらには百八十センチ半ばあたりの身長と、伸びた背筋が年齢を思わせない。

 それに窪んだ目は強い意思を感じさせていて、この屋敷に仕える長としての誇りを持っている。


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