今宵は天使と輪舞曲を。
「然るべき探偵も雇って調べたい。何か相手に特徴はなかったかい?」
グランの言葉に、メレディスは静かに首を振った。
「薄暗かったし、特徴といっても何も分からないわ。でもひとつ確実なのは、相手はわたしがメレディス・トスカであるかどうかを確認してきたということよ」
「なるほど。相手は君のことを良く知らない人間だったんだね。ひょっとすると何者かが君を襲うために彼らを雇った可能性があるね」
「あと、わたしの顔を傷つけるだけで良いとも言っていたわ」
「なるほど。彼らの目的は殺害でも金目当てで攫うつもりでもなかったんだね」
グランは顎を擦りながら答えた。
眉間に深い皺が刻まれる。
「だとすれば、ぼくたちブラフマン家に対する怨恨ではない可能性が高くなる」
ラファエルもグランに続いて口を開いた。
「たしかに、依頼と彼らはそう言っていた気がするわ」
「他には?」
グランが尋ねると、メレディスは口を閉ざした。目には悲壮感を漂わせている。
「襲われた時のことは言わなくてはいけない?」
昨夜のことを思い出したメレディスは、自分の身を守るように両腕を体に巻きつけた。
あの時、猪が襲ってこなければ自分はどうなっていただろう。彼らには顔だけではなく、心もずたずたに傷つけられていたのではないだろうか。
そして自分を探しに来てくれたラファエルの目に打ちひしがれた自分の姿が写るのだ。
それを考えると寒くないはずなのに体が小刻みに震える。それでも彼女は下唇を噛み、懸命に堪えた。