今宵は天使と輪舞曲を。

「――いや、必要ない」
 グランが頷こうとすると、ラファエルは空かさず首を振った。
 メレディスはほっと息をつき、ラファエルを見上げた。
 二人の視線が重なる。彼女の不安げな視線がラファエルの胸を痛めつけた。

 ラファエルは、彼女を強く抱きしめてやりたい衝動に駆られた。
 しかし、昨夜のこともあって、男性に触れられるのはトラウマを植え込むかもしれない。
 ならば自分がすべきことはただひとつ。一刻も早くこの事件を解決することだ。そしてもうひとつ。自分にはやるべきことがあるのをあらためて思い知る。

 ラファエルにとって、この事件は忌々しい出来事ではあったが、得たものはあった。
 彼女は自分にとってすべてであり、とても大切な女性であるという事実だ。
 昨夜、キャロラインからメレディスが居なくなったことを伝えられ、胸が張り裂けそうになったし、猪に襲われた姿を見た瞬間、体中のアドレナリンが全身の毛穴から吹き出すのを感じた。
 彼女を失いたくはない。そして他の連中にも取られたくはない。
 彼女を守るのは自分だけだし、悲しい思いをさせたくはない。
 ラファエルは自分の中に母性が宿るのを感じていた。

 たしかに。二人が言うとおりかもしれない。
「そうだね、身を固めることも考えておく必要はある」
 気のせいだろうか。メレディスの表情が強張ったような、悲しみの色を宿した気がして、ラファエルは驚いた。


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