今宵は天使と輪舞曲を。

 他人事のように思っているだろうが、時期に兄もそういう日が来ることをラファエルは知っている。母親はどうあっても息子二人に結婚を勧めてくるだろうから。ラファエルの決着が付けば次は兄だ。全身全霊で母親は兄へと意識を傾けるだろう。

「デボネ家を我が屋敷に招待したいと言ったのはキャロラインだからね。君も言っていたじゃないか、本だけでなく生身の友達を作れと――」
 グランに続き、話すモーリスの言葉にレニアはとうとう頭を抱えて呻りだした。
「キャロラインには友達が必要だと貴方から聞いて賛成したけれど、わたしはデボネ家だとは聞いていなかったわよ……」
 まんまと嵌められたのだとレニアは夫を睨んだ。
「大体、貴方はキャロラインに甘すぎるのよ! よりにもよってデボネの人間まで招待するなんて!」
「仕方がないだろう、彼女はまだ独身だし一人だけ招待することなんてできない」
「ええ、そうね。貴方は特にキャロラインに甘いものね」
「そういう君もキャロラインに十分甘いと思うがね」

 二人の話題はいつの間にかキャロラインへと移っている。ブラフマン家の女性がこの家のボスなのだ。きっとメレディスも――。

「……とにかく、ぼくは決めたんだ。彼女と結婚する」
「ラファエル!」

 ラファエルは立ち上がると二人の部屋を出る。後ろを振り向きもしなかったが、背後にいる母親が頭を抱えている姿は簡単に想像できていた。それでもラファエルは自分の判断が間違っていないことを分かっていた。今までたくさんの女性を嫌と言うほど見てきたが、ラファエルの興味を掻きたてられる女性はどこにもいなかった。
 自分には彼女しかいないのだ。



《ラファエルの決断・完》
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