今宵は天使と輪舞曲を。
「その件についての責めはこちら側にあります。実は領民から野生の大きな暴れ猪が出るという話を聞いておりました。対処が遅れてしまったのはこちらの不手際」
モーリスも続いた。
どうやら彼らはメレディスが拐かしに遭ったことを伏せてくれているようだ。そうしたのはメレディスの世間体を気にしてのことだろう。なにせ貴族たちは大のゴシップ好きだ。男二人組に襲われたという事実が知られればメレディスは間違いなく世間の笑いものになる。そうなれば、一生を棒に振る可能性が出てくるのだ。
メレディスは彼らブラフマン家の心配りに深く感謝した。
「翌日に兄と猪狩りをする予定ではありましたが、間に合わず、彼女に手傷を負わせてしまったことを謝罪します。ミセス・デボネ。ミス・デボネ。義理とはいえご家族なのですから、末娘であるミス・トスカがご心配だったことだと思います。猪に襲われたと聞いてさぞや胸を痛められたたことでしょう。きっと一昨日も昨夜も、一睡もできないほど苦しんでおられたでしょうに――」
ラファエルも口を開いた。胸に手を当て、頭を下げる。
とても大袈裟な科白と態度だ。彼はもしかすると過去には劇団員の人間だったのだろうか。
ラファエルの言葉を聞いたメレディスは口をぽかんと開けた。
デボネ家の人間が自分の安否を心配するあまり一睡もできないなんて有り得ない。当然、ラファエルもデボネ家以外のその場にいる誰しもが知っていることではあるだろう。暗に嫌味を告げた彼の態度には驚くばかりだ。