今宵は天使と輪舞曲を。
§ 11***恋心と戸惑いに揺れて。
湖で会おうだなんて、彼はまだ自分と火遊びをするつもりなのだろうか。
メレディスは深いため息をついた。湖に向かう間についたため息はいったい何回目になるだろう。
今のメレディスの悩みの根源は専ら彼、ラファエル・ブラフマンにある。
彼とはけっして実らない恋だと分かっている。
いい加減止めなければいけないと思うのに、逢瀬を求められれば断れない。
一昨日の事件があった後ではさらにラファエルの存在を強く意識してしまう。
いけないと思ってはいても、手を差し伸べてくれる彼に寄りかかりたくなる。
それだけ、身も心もぼろぼろで、自分が弱っている証拠なのだ。
彼には結婚を決めた女性がいるに違いない。彼の屋敷の前で抱き合っていたあの女性こそが本命なのだ。
それなのに、こうやって愛人のような関係性でも良いからと彼のぬくもりを求めてしまう弱い自分にもうんざりだ。
それでもメレディスの足は湖に近づけば近づくほどに速度を上げていく。
身も心も彼を求めてしまうのだ。
今日はブラフマン家から馬を借りずに屋敷を出た。それというのも他者に勘繰られないためだ。ブラフマン家の人間はキャロラインを除いてメレディスがラファエルと親しくなるのを快く思っていないのは当然知っているし、叔母のエミリアはジョーンこそがブラフマン家の嫡男と結婚することを夢見ている。メレディスの恋が実るはずもないのだ。そういうこともあって三〇分という長い道のりを自らの足で向かっていた。