今宵は天使と輪舞曲を。
会場には数え切れないほどの貴族がいたが、それでもここは満員になることがなかった。けれども女性が肌に吹き付けている強い香水の匂いと密集する人の熱気でむせ返りそうになる。どんなに品のある空間でもこればっかりは対処できないから仕方がない。
家令に案内され、メレディスは会場に辿り着くなり一目散にシャンデリアの照明が控え目に照らされている壁際へと移動した。そして自分はいつものごとく、『壁』になるのだ。
壁際に移動した姪を見たエミリアは固くうなずき、愛娘たちを連れて会場の中央へと消えていく。
そしてメレディスにとって、これからが孤独な戦いが始まるのだ。
屋敷内では蔑んだ目で自分を見るのは家族のエミリアとジョーン、それにヘルミナの三人のみだが、ここではさらなる人がいる。誰も彼もが彼女を異物でも見るような目を向けてくるからだ。
それもそのはず。社交パーティーに参加する人々は彼女の事情が筒抜けになっている。
――かわいそうなメレディス嬢。
――優しい親戚がいてよかったわね。
同情する皆の言葉が彼女の耳に入ってくる。その度にメレディスの体はこわばり、緊張するのである。だからメレディスはこの社交パーティーが大嫌いだった。
けれど、今夜はいつもと少し違う。
そう思うのはなぜだろう。
メレディスは、なぜか心が弾むような感覚がして思わず眉を潜めた。
同時に周囲の空気が変わった。