今宵は天使と輪舞曲を。

 期待と緊張が入り交じった空間から明るい雰囲気が加わる。

 ――どうやら彼らがお出ましになるらしい。会場の窓際に整列している演奏家たちがゆったりとした音楽を奏で始めた。

 会場にいる紳士は息を飲んだり、貴婦人は扇子で口元を隠してひそひそと会話しながら、おそらくは階段上の踊り場から登場するだろうブラフマン家の姿を見逃すまいと輝きに満ちた目を向けていた。



 ブラフマン家の人間はとても人当たりがよく、人々から支持を得ていた。貴族の集まりはもちろんのことながら、社交界においても有力候補のひとりになっている。

 ――とはいっても、メレディスは彼らブラフマン家のことをあまり知らない。なにせ彼らは常に人々の中心にいる。そして自分はといえば――常に輪の外にいる。だからメレディスは当然、彼らの容姿すらも見たことがない。
 それでも社交界とは恐ろしいもので、彼らの噂はあっという間に広がるのだ。


 人々の視線が今か今かと踊り場に繋がる、中二階の中央階段に注目していると、彼らは颯爽(さっそう)と姿を現した。


 はじめに現れたのは金髪の女性と、その女性をエスコートしているふくよかな体型をした紳士だった。女性が来ている黒のイブニングドレスは照明に照らされて、まるで夜空に浮かぶ星々のようにきらきらと輝いている。品の良い黒が白い肌を強調させ、その肌さえも輝いているように見えた。


< 30 / 358 >

この作品をシェア

pagetop