今宵は天使と輪舞曲を。
彼女はおそらくレディー・レニア・ブラフマンだ。三人の子供がいるのにも関わらず、年齢を感じさせないほっそりとした体型。けれどもその雰囲気はあたたかく、立ち姿は凛としていた。
その彼女をエスコートしている大柄な紳士がモーリス・ブラフマン伯爵だろう。見るからに温厚そうな彼は、豊かな黒髪に白髪が混ざっているのか、シャンデリアの光が反射して輝いているように見える。彼には気品と優しさ。それから一家の主としての威厳も感じられた。
そして、ブラフマン夫妻の後に続いて二人の男性にエスコートされている彼女は今夜華々しく社交界デビューを果たす末娘のキャロラインだ。
ともすれば、キャロラインの両脇に立っている右側の長身の男性は長男のグラン・ブラフマンだろう。彼女を愛おしそうに見下ろしている。
襟足まで切り揃えられた、濡れたような艶やかな漆黒の髪が印象的だ。遠巻きからでも分かるほどのハンサムで、黒のイブニングコートを着ている体はそこらへんにいる紳士よりも力強い。長男としての威厳と責任を表している鷲鼻と分厚い唇はへの字に曲がっている。
険しい表情から察するに、彼はどうやらこういう華やかな場があまり好きではないらしい。
対するキャロラインは天真爛漫な性格なのだろうか。
オレンジ色のイブニングドレスはまるでマリーゴールドの妖精のようだ。愛らしい雰囲気を醸し出している。