今宵は天使と輪舞曲を。

 時折、茶色い髪がどこからか吹く風でふんわりとなびいている。まだ顔つきは幼いものの、しかしやはり名家の娘であることには違いない。彼女の愛らしい雰囲気の中に気品が漂っている。
 けれども好奇心旺盛な性格は隠せそうにはないらしい。
 会場中に集まった人々に向けられている彼女の目は輝き、行ったり来たりを繰り返していた。

 なんてかわいらしいのだろう。メレディスは可憐なマリーゴールドの妖精に思わず微笑を漏らした。

 その時だ。父親や兄のグランと同じく黒のイブニングコートに身を包んだ、キャロラインをエスコートしているもうひとりの男性と目が合った。

 次男のラファエル・ブラフマン。


 ――ああ、彼はなんてハンサムなのかしら。

 ラファエルをひと目見た瞬間、背中から全身に向かって電流が駆け抜けるのを感じ、メレディスは息を飲んだ。


 メレディスはほんの一瞬で彼に目を奪われてしまったのだ。

 それはとても不思議な気持ちだった。貴族たちが集う公の場に訪れるようになって二年にもなる。今までどんな男性を見てもけっして惹かれたことなんてなかった――。

 けれどそれは無理もないことなのかもしれない。

 だって彼の容姿は完璧なのだから。
 黒の礼服に包まれた象牙色の肌は発光しているようにも見える。肩まで伸びた深みのある金色の髪に、角張った男性らしい輪郭。高い鼻梁の下にある大きくて薄い唇。広い肩幅に分厚い胸板。それから長い足はズボン越しからでも見て取れるほどに引き締まっている。


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